トラクションモータの概要

仕事でトラクションモータにかかわっているので、ブログのネタにする一方、新入社員にトラクションモータの概要がわかるような記事を作りたいなぁと思って本記事を作成しました。
仕事の情報漏洩に当たらない程度に調べたりちょっと考えれば分かる範囲で書いており、厳密には違う部分もあるかもしれませんがご了承ください。

ラクションモータとは

ラクションモータとは、EVの車両駆動用システムで、モータ・ギヤ・インバータが一体になった構造のものを指します。車体に載せて製品に電力を供給すれば、タイヤにつながるドライブシャフトの回転トルクを発生させて車を走らせるところまで、1製品で自己完結できるシステムです。


画像&説明引用元: トラクションモータシステム「E-Axle」(EV駆動モータシステム) | 日本電産株式会社

ラクションモータに求められるスペック

  • 出力(回転数とトルク)・・・最も基本となるスペック、これをベースに設計を考える
  • コスト ・・・言わずもがな
  • サイズ ・・・車両のレイアウトに搭載可否にかかわる
  • 効率  ・・・車両走行距離に直結
  • 重量  ・・・車両走行距離に直結
  • 静音性 ・・・エンジンと比べて音圧は小さいが、高周波が大きく目立つため、ユーザビリティの向上目的

これをどのように改善していくかが設計課題になります。

分類

前記スペックを満たすために、いろいろな構造が取られます。
分類方法にはいろいろあるかと思いますが、ここでは下記の項目で分類します。

  • 冷却方式
  • ロータ構造
  • 減速機構造
  • ステータコイル構造

冷却方式

ラクションモータで最も発熱する物はステータです。
これをどのように冷却するかは設計の大きな課題の一つです。

ステータの冷却方式には大きく3種類有ります。

  • 油冷方式
  • 水冷方式

です。
必要な冷却能力によって使い分けます。

油冷方式

   
画像引用元:巻き線界磁式モーターを駆動に(3ページ目) | 日経クロステック(xTECH)

モータ内部(具体的にはコイル)に直接オイルをかけ、抜熱する方式です。
オイルはポンプで強制循環させ、LLCとの熱交換機を通してオイルを冷却し、再びモータにかけることで冷却します。
これの特徴は、発熱体のコイルから直接冷却することができるので、後述する水冷方式よりも冷却能力が高いです。
冷却能力が高いということは、より小型なモータを実現できるというメリットがあります。コストの比重の大きいモータを小さくできるということはコストを抑えられるということであり、重量の面でもメリットが出ます。
デメリットとしては、部品点数が増えコストアップ要因が増えます。具体的には、非金属材料は耐油性を持った材料を選定する必要があり、強制循環させるためのオイルポンプ、LLCとオイルの熱交換機が必要になります。
メリットデメリットの両方にコストがあるので、最適な選択というのが難しいです。

メリット

  • モータを小型化可能
    抜熱性能が高いためモータを小型化することができ、重量、サイズ、コストの低減が見込めます

デメリット

  • 高コストな部品が必要
    オイルポンプ、熱交換器が必要となります。

採用車種:

  • GAC Aion New Energy Automobile : Aion S
  • Zeekr Intelligent Technology : ZEEKR 001
  • Tesla : Model 3

水冷方式

   
画像引用元:Sandy Munro Examines Volkswagen ID.4's Electric Motor

ステータの外径部にハウジングを介した水路を設け、そこに流れるLLCに熱を移動させて抜熱する方式です。
LLCの圧送は車両のポンプを利用するため、トラクションモータには搭載する必要がありません。そのため、安価に実現できます。
その代わり、抜熱経路が
コイル→ステータ→ハウジング→LLC
という経路になり、LLCまでが遠くなるため、冷却能力が油冷に比べて下がります。
そのため、油冷方式に比べて発熱を下げる、熱容量を大きくする、水路との接触面積を大きくする、などのモータサイズが大きくなる対策を取る必要が出てきます。
また、モータ室内に油が無いため、インバータの回路と分離する必要が無く、同じ部屋に基板を配置することができ、レイアウト自由度が上がり、シール部品も一部削減することができます。

メリット

  • 部品数が少ない
    油冷方式で必要となったオイルポンプと熱交換器が不要になります。
  • インバータとモータ間でシールが不要
    モータとインバータは電気的に繋げる必要があります。オイルがないことでその間でシールをする必要がなくなり、構造がシンプルになります。

デメリット

  • 冷却能力が低い
    油冷方式と比べてコイルの抜熱経路が遠く、冷却能力低いです。そのため発熱量を下げるために銅損や鉄損を下げたりする必要があります。
  • 水路を形成するハウジングが必要
    ステータの外径部に水路を設けたハウジングが必要になります。これにより油冷方式に比べてダイカスト部品が1つ増えることになります。
  • ロータ(マグネット)の冷却が困難
    油冷方式であればオイルでロータを冷却する構造を比較的容易にとることができますが、水冷式では冷却経路がほぼありません。そのためマグネットの温度が高くなりやすいです。シャフト内部にLLCを入れ冷却をすることはできますが、難易度とコストが高いです。

採用車種:

参考文献:

ロータ構造

モータはトラクションモータのスペックを決定づける最も重要な部品です。
ロータは3種類に分類できます。

  • IPMSM(埋込磁石同期電動機)方式
  • IM(誘導電動機)方式
  • EESM(巻線界磁式同期電動機)方式

それぞれ一長一短ですが、IPMSM方式が最も使用されています。

IPMSM(埋込永久磁石同期電動機)方式


画像引用元:Tesla Model S PLAID carbon sleeved rotor is impressive tech - YouTube

いわゆるブラシレスDCモータの構造です。
最も多く採用されているロータ構造です。
永久磁石を用いた構造であり、モータの回転数が1万rpm以上の高速回転となるため強度が求められるためSPMSMではなくIPMSM方式が採用されます。

メリット:

  • 高性能
    効率、サイズ、重量ともに優れています。

デメリット:

  • レアアースを含む磁石が必要
    耐熱性の高い磁石はレアアースの使用量が多く、コストが高いです。また、レアアースは市場リスクがあります。
  • 熱に弱く、冷却設計が重要
    温度が高くなると減磁が発生します。減磁は不可逆のため、決して許容温度を超えない設計が必要になります。耐熱性の高い磁石はレアアースの使用量が多くなり、コストが高くなります。

採用車種:

  • Tesla:Model 3:リアモータ
  • Volkswagen:ID.4

IM(誘導電動機)方式


画像引用元:Understanding the Tesla Model S Front Motor - YouTube, Model Y E16: Electric Motor Comparison MY-M3, Industry review of Electric Motors, Table for Sale! - YouTube

誘導電流によってロータに磁界を発生させる方式です。

メリット:

  • 磁石フリー
    磁石を使用しないので、コスト面で優れますが、サイズ、重量、発熱もIPMSM方式に比べて大きくなります。

デメリット:

  • 発電不可
    磁石を使用しないため発電ができません。つまり、回生ブレーキ等でバッテリーを充電することができないため、IM方式のみのEVは存在しないでしょう。

採用車種:

  • Tesla:Model 3:フロントモータ
  • Tesla:Model Y:フロントモータ

EVではトラクションモータを複数台搭載し、出力を底上げする方法がとられます。
例えばリアに1台、フロントに1台といった構造です。
この時、両者ともIPMSM方式の場合、リアのみで駆動すると、フロントのモータはどうしてもタイヤに接続されているため回転し、発電してしまいます。
こうなると、リアのモータでフロントのモータを回していることになり、非常に効率が悪いです。
この時、フロントに搭載するモータをIM方式にすることで解決できます。
IM方式は発電ができないため、タイヤに従動して回転させられたとしても、損失は非常に小さいです。

EESM(巻線界磁式同期電動機)方式

ロータ部にコイルを巻いて、ブラシを介して界磁を発生させる方式です。
実務での使用経験は無いので間違ってたらごめんなさい。


画像引用元:間もなく発売!日産アリアの生産工場に潜入。栃木工場の「ニッサン インテリジェント ファクトリー」が最新鋭過ぎた! | ドライバーWeb|クルマ好きの“知りたい”がここに

メリット:

  • 磁石フリー
    コスト優位性とレアアースフリーによる市場の安定性を得られます。

  • 発電のON/OFFを切り替え可能
    ロータに電流を流さなければ発電しないため、外力による回転ロスがありません。そのためIM方式のように補器として使えます。また、ロータに電流を流せば発電できるため主機としても使用できます。

  • 高速低トルク領域でIPMSM方式より高い効率
    車では低速高トルク領域よりも、高速低トルク領域での使用頻度が高いです。そのため高速低トルク領域で効率が良いことは車両としての効率も高いことになり、メリットが大きいです。

デメリット:

  • ブラシが必要
    車のような高い耐久性が求められる製品で消耗品であるブラシを採用することは難しいと考えられます。

  • サイズが大きい
    ブラシの部分と出力密度がIPMSM方式と比べ小さいことから、小型化が難しい。

採用車種:

  • 日産:アリア
  • ルノー:ゾエ(たぶん)

参考文献:

減速機構造

タイヤの回転数に対してモータの回転数は高いので、減速機で減速させる必要があります。
この構造もいくつかあります。

  • 3軸(平行軸減速 → 平行軸減速)方式
  • 2軸(平行軸減速 → 平行軸減速)方式
  • 2軸(遊星減速 → 平行軸減速)方式
  • 1軸(特殊遊星減速)方式

3軸(平行軸減速 → 平行軸減速)方式



画像引用元:Tesla Model 3 and Y Modular Motors - YouTube

  1. ロータ軸と1stピニオン軸
  2. 1st ギヤと2ndピニオン軸
  3. 2ndギヤとディファレンシャルギヤ軸

の3つの軸から構成される構造です。

おそらく1番一般的な構造です。
シンプルで単純なギヤを持つためコストが安い一方、サイズが大きくなりやすいです。

採用車種:

  • Tesla : Model3

2軸(平行軸減速 → 平行軸減速)方式



画像引用元:Chevrolet Bolt EV Traction Motor - Deep Dive - YouTube

  1. ロータ軸、1stピニオン軸、2ndギヤ軸、デファレンシャルギヤ軸
  2. 1st ギヤと2ndピニオン軸

の2つの軸から構成される構造です。

メリット

  • 車両前後方向にサイズを小さい
    3軸方式よりも1軸少ないため、前後方向の全長を抑えることができます。
  • ギヤコストが低い
    3軸方式と同じシンプルなギヤであるため、ギヤコストは3軸方式と同じく低コストです。

デメリット

  • 2つのシャフトを1軸に通す構造が必要
    ロータ軸の内側にデファレンシャルギヤの軸と通す必要があり、軸を支える構造に工夫が必要なこと、
  • 減速比の選択肢に制限
    1st減速段と2nd減速段の軸間距離が等しい必要があるので、減速比の選択肢が限られること

と考えられます。

採用車種:

  • Chevrolet : Bolt

2軸(遊星減速 → 平行軸減速)方式



画像引用元:How It Works Audi e-tron engine & gearbox animation, e-tron powertrain animation - YouTube

メリット

  • 車両左右方向にサイズを小さい
    遊星ギヤと薄い特殊なデファレンシャルギヤを用いてギヤ室がかなり小さくすることができる

デメリット

  • コストが高い
    遊星ギヤと特殊なデファレンシャルギヤを使用しているため、2段平行軸減速構造よりも明らかにコストが高くなります。

採用車種:

1軸(特殊遊星減速)方式


画像引用元:The Marvelous Motors of the Mustang Mach-E GT - YouTube

メリット

  • 車両前後方向にサイズを小さい
    2軸方式よりもさらに1軸少ないため、前後方向の全長を抑えることができます。
  • 重心が中央
    重心がモータとギヤの間に来るため、車両左右方向に対する重心バランスが良く、車両のバランスを崩しにくくなります。

デメリット

  • 2つのシャフトを1軸に通す構造が必要
    ロータ軸の内側にデファレンシャルギヤの軸と通す必要があり、軸を支える構造に工夫が必要なこと、

  • ギヤコストが高い
    複雑な減速構造であるうえ、ギヤ点数も多くなるため、コストは上がります。

採用車種:

ステータコイル構造

丸線方式


画像引用元:Sandy Munro Examines Volkswagen ID.4's Electric Motor

最も一般的なコイルの構造です。
円形の断面形状をした細いコイルを使用する方式です。

採用車種:

  • Tesla:Model 3:リアモータ
  • その他多数

平角線(ヘアピン)方式


画像引用元:Sandy Munro Examines Volkswagen ID.4's Electric Motor

長方形の断面形状をした太いコイルを使用した方式です。

メリット

  • 占積率が高い
    巻き数が少ないと、皮膜・すきまの比率が丸線に比べて少なくなります。そのためスロット内部の銅線比率が多くなり、出力密度が大きくなります。

  • 高電圧にしやすい
    高圧に対応するにはコイルの皮膜を厚くする必要があります。コイル皮膜が厚くなると占積率が下がるので、巻き数を減らして皮膜の面積比率を下げられる平角線が優位になります。

  • 自動化しやすい
    丸線はコントロールが難しく、いくつかの工程で人の手が必要となります。それに比べて平角線は固いため、自動化で組み立てまで行うことが容易と言えます。

デメリット

  • コストが高い
    丸線と比べると高価になります。

  • コイルエンドが大きくなる
    コイルが硬いため、丸線ほど高密度でコイルエンドを成型することができません。そのためコイルエンドが大きくなり、軸方向にサイズが大きくなります。

採用車種:

部品のあれこれ

準備中